電子帳簿保存法の改正

税金のお話

▶ 目次

1. 電子帳簿保存法の概要

2. その①:電子帳簿等の保存

3. その②:スキャナ保存

4. その③:電子取引

5. 電子帳簿保存法への対応

ライン②
だんだんと肌寒くなってきて、冬が近づいているのが感じられるようになりました。
前回、前々回とインボイス制度についてお話しましたが、令和3年1月1日より施行される「電子帳簿保存法」という法律は皆さまご存じでしょうか。

さて、今回のテーマは「電子帳簿保存法の改正」です!

1. 電子帳簿保存法の概要


<2021.12.06 追記>

2021年12月6日の日本経済新聞にて、改正後の電子帳簿保存法における「電子取引」に係るデータ保存の義務化につき、2年の猶予期間が設けられる見込みとの記事を確認しました。
「電子取引」に関しては、当分の間は従来通り紙で保存が認められることとなりましたので、ご留意ください。

また詳細は後日、国税庁公式HPより公開されると思われますので、本改正に関わる事業者さまはそちらをお待ちいただけると幸いです。



「電子帳簿保存法」とはその名の通り、保存要件のある帳簿書類について、電子データで保存する場合のあれこれを定めた法律です。

今までは、電子取引であっても出力を行い、他の書類と共に紙で保存していた方が多いと思われますが、今回の改正でそのような保存方法が認められなくなります。

例えば、データでしか領収書を発行しない通販サイトにて消耗品を購入した場合、その領収書を紙に出力して会社内に保存しても、その支出が経費として認められないおそれがあるということです。

実質は経費だと別の形で証明はできたとしても、税務調査員に否認された場合に反論できません。法律に則った形で保存しないと「経費」の要件を満たさないからです。

このように、今回の「電子帳簿保存法」の改正はほぼすべての事業者さまに関わるものとなりますので、その内容について一度は目を通しておいて欲しいと思います。





まず、電子帳簿保存法で定める電子データ(電磁的記録)は3種類に大別できます。

電子帳簿保存法における電磁的記録

① 会計ソフト等により作成された、
  決算関係書類・国税関係帳簿に係るデータ

② スキャンにより保存したデータ

③ 電子取引によりダウンロードしたデータ

電子帳簿保存法における電磁的記録には、電子帳簿等(①)・スキャン保存(②)・電子取引データ(③)の3種類があります。


なお、先に例示した通り、データで受領した領収書等を印刷して紙で保存することは改正によりできなくなります。紙だと改ざんのおそれがあるからです。

改正後の電子帳簿保存法では、改ざん防止のために、データで受領した領収書等を紙ベースで保存することができなくなります。


もともと、電子帳簿保存法が創設された平成10年度税制改正以前は、書類・帳簿の保存は紙でしか認められていませんでした。

しかし高度情報化・ペーパーレス化が進展する中で、時代の流れに合わせた保存法を認めるべきだという声を受け止めてできたのがこの法律です。前述した3種類のそれぞれに、保存要件が細かく設定されました。

一方で、実務上この法律に基づき電子帳簿やスキャナによる保存を行っている事業者はあまり見たことがありません。
いざその方法で保存を行うとなると、専用の設備(電子帳票に対応したソフトやタイムスタンプなど)への投資額・事務負担が大きいからだと思われます。

これらの実情を受けてか、令和3年度税制改正において電子帳簿保存法が改正されました。
改正理由については、財務省が令和3年3月に発行したパンフレットにて以下の通り記載されています。

「経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、帳簿書類を電子的に保存する際の手続を抜本的に簡素化します(令和4年1月1日以後適用)。」

(財務省/令和3年度税制改正/14頁)

利用にあたっての手続きを簡素化することで、書類・帳簿の電子化を普及させたいようです。
紙での保存を推奨していた時代があったことを考えると、なんだか、流れが大きく変わったなという気持ちが湧いてきますね。

タイムスタンプなどの活用・修正削除履歴が把握できる電子データは改ざんの恐れが少ない上、一定の情報を検索するときには、紙を手作業でめくるよりもデータベースを活用した方が効率的に行えます。

税務調査が楽になる、という偏った見方もできてしまうのですが、

事業者側の視点に立てば経理上のメリットもありますし、過少申告加算税の軽減措置なども整備されておりますので、

この改正を機に書類・帳簿の保存方法を全体的に見直すのもいいかと思われます。

ライン①

2. その①:電子帳簿等の保存


では、前述した3種類に分けて、改正後の電子帳簿保存法について見ていきたいと思います。

一つ目は「会計ソフト等により作成された、決算関係書類・国税関係帳簿に係るデータ」、いわゆる「電子帳簿等」です。

以下が改正の内容になります。

電子帳簿等保存に関する改正事項

① 税務署長の事前承認制度の廃止

② 優良な電子帳簿に係る
  過少申告加算税の軽減措置の整備

③ 最低限の要件を満たす電子帳簿についても、
  電磁的記録による保存等が可能に

まず改正事項①について、改正前までは、電子帳簿等を利用する場合には税務署長の事前承認が必要でした。それが不要になったということです。

改正理由にあった通り、手続きが簡素化されていますね。


そして改正事項②は、「優良な電子帳簿」の要件を満たしてデータの保存を行っている事業者は、 申告漏れに係る過少申告加算税が5%軽減されるというものです。

ここで注意していただきたいのですが、この過少申告加算税の軽減措置に限り、その適用を受けるためには適用年度開始の日までに税務署長に届出書を提出する必要があります。

つまり、事前承認なしに電子帳簿等で保存することはできるのですが、「優良な電子帳簿」の要件を満たした上で、届出書を出していないと過少申告加算税の軽減措置は受けられません。

また、これは今回の改正によって新設された措置ですので、
改正前より電子帳簿保存法の適用を受けている事業者であっても、この過少申告加算税の軽減措置を受けるためには届出書の提出が必要となります。


では、過少申告加算税の軽減措置の対象となる「優良な電子帳簿」について以下をご覧ください。


優良な電子帳簿とそうでないものに係る、保存要件の比較です。


なお、本表は下記パンフレット「電子帳簿保存法が改正されました(令和3年5月)」の2頁目から抜粋したものです。

国税庁公式HP/法令等/その他法令解釈に関する情報/令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しについて/電子帳簿保存法が改正されました(令和3年5月)




「優良な電子帳簿」を作成するには様々な要件があり、一つ一つを実務に取り入れようとすると煩雑なようにみえるのですが、

そもそも電子帳簿の導入を検討する方は既に会計・申告ソフト等で入力を行っている事業者さまのはずなので、「優良な電子帳簿」に対応しているシステムの導入を考えるのが現実的かと思われます。

詳しくは、契約している税理士か、現在利用されているソフトの販売元にお問い合わせください。



戻りまして、

改正事項③の「最低限の要件を満たす電子帳簿」とは、上表の「その他」に区分される電子帳簿のことを指します。

なお、改正前までは、「優良な電子帳簿」以外の帳簿は電子帳簿保存法の適用外であるため紙で保存しなければいけませんでしたが、

今回の改正により、正規の簿記の原則に基づいて作成された帳簿で、かつ、上記表の「その他」に係る保存要件(システム関係書類・関係機器およびその資料の備え付け・調査時のダウンロードへの対応)を満たすものであれば、電子データでの保存が認められることとなりました。

その場合には過少申告加算税の軽減措置は受けられませんが、
「優良な電子帳簿等」に対応したシステムを導入しない事業者さまであっても、一定の要件を満たしさえすればデータでの保存ができるようになったということですね。

ライン①

3. その②:スキャナ保存


二つ目は「スキャンにより保存したデータ」、いわゆる「スキャナ保存」のデータです。

以下が改正の内容になります。

スキャナ保存に関する改正事項

① 税務署長の事前承認制度の廃止

② タイムスタンプ・検索要件等の緩和

③ 適正事務処理要件の廃止

④ 不正があった場合の重加算税の加重措置の整備

改正事項①は先ほどと同様に、改正前とは違い税務署長の事前承認が不要になったということです。

改正事項②では、スキャナ保存に関する要件のうち下記4点が緩和されました。

参考として、保存要件の概要一覧表も載せておきます。要件の一つ一つを確認するとなると細かい内容となりますので、この場ではざっくりとご理解いただければなと思います。

スキャナ保存に係るタイムスタンプ・検索要件等の緩和
(改正事項②の詳細)

A タイムスタンプの付与期間が
  最長約2か月と概ね7営業日以内に変更

B 国税関係書類への自署は不要

C データ内部の訂正・削除を行った場合、
  クラウド等において入力期間内にそのデータの保存を
  確認することができればタイムスタンプの付与は不要

D
 ・検索要件の記録項目が、
  「取引年月日その他の日付」「金額」「取引先」に限定される
  
 ・質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じる場合には、
  範囲指定及び項目を組み合わせる条件設定機能の確保が不要

スキャナ保存の要件一覧になります。


なお、上表は下記パンフレット「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】(令和3年7月)」の15頁目から抜粋したものです。

国税庁公式HP/法令等/その他法令解釈に関する情報/電子帳簿保存法関係/電子帳簿保存法(一問一答)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~/電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】





戻りまして改正事項③の「適正事務処理要件の廃止」について、

この「適正事務処理要件」というのは、社内管理に関するものです。

改正前は、相互牽制、定期的な検査及び再発防止策の社内規定の整備等が求められておりましたが、それらすべてが今回の改正により廃止となりました。

最後に、

改正事項④の「不正があった場合の重加算税の加重措置の整備」は、隠蔽・仮装に対する重加算税が10%加重されるというものです。

当然ではありますが、このような規定がなくても重加算税の対象となる行為はしないでくださいね!

ライン①

4. その③:電子取引


最後は「電子取引によりダウンロードしたデータ」です。

以下が改正の内容になります。

領収書が電子データである通販サイトから購入した場合は、基本的にこの「電子取引」に該当することとなるので注意してください。

電子取引に関する改正事項

① タイムスタンプ・検索要件等の緩和

② 適正な保存を担保する措置の見直し
 
 ・データの出力書等の保存をもってその電磁的記録の保存に
  代えることのできる措置の廃止

 ・不正があった場合の重加算税の加重措置の整備

そして、上記改正内容を踏まえた保存要件は下記の通りです。


電子取引保存の要件の一覧になります。


なお、本表は下記パンフレット「電子帳簿保存法が改正されました(令和3年5月)」の4頁目から抜粋したものです。

国税庁公式HP/法令等/その他法令解釈に関する情報/令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しについて/電子帳簿保存法が改正されました(令和3年5月)




まず、

改正事項①の「タイムスタンプ・検索要件等の緩和」についてみていきます。これはスキャナ保存に関する改正事項②と同趣旨のものです。

下記をご覧ください。

電子取引に係るタイムスタンプ・検索要件等の緩和
(改正事項①の詳細)

A タイムスタンプの付与期間が
  最長約2か月と概ね7営業日以内に変更

B
 ・検索要件の記録項目が、
  「取引年月日その他の日付」「金額」「取引先」に限定される
  
 ・質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じる場合には、
  範囲指定及び項目を組み合わせる条件設定機能の確保が不要
 
 ・基準期間の売上高が1千万円以下の方が質問検査権に基づく
  ダウンロードの求めに応じる場合には、検索要件自体が不要 

Bの三つ目にある「基準期間」というのは、主に前々年度のことを指します。

この期間の売上高が1千万円の方は検索要件が不要となるという部分がスキャナ保存に関する改正事項とは異なっていますが、
それ以外はほとんど同じです。


最後に、

改正事項②の「措置の見直し」について、
一つ目は本記事の初めに取り上げた通りの内容です。電子取引データは紙ではなくデータで保存するようにしてください。

二つ目も、隠蔽・仮装に係る重加算税が10%加重されるという内容です。スキャナ保存に関する改正事項で取り上げたものと同様です。

ライン①

5. 電子帳簿保存法への対応


細かい要件が多く苦戦しそうではありますが、今回の改正に対応した大掛かりなシステムがなくても、社内事務規定の作成やExcelでの管理などで対応できる部分もあります。

まず電子帳簿に関しては、改正後も従来通りの管理方法を続けることに法律上の問題はありません。

税理士に勧められた、ペーパーレス化を進めたいなどの理由がある方のみ、電子帳簿に移行されるといいと思います。

スキャナ保存も電子帳簿の場合と同様、一定のシステムを導入しなければ活用が困難です。

タイムスタンプを付すシステムか、データ内部の訂正・削除を行ったときに入力期間内にそのデータの保存を確認することができるクラウド等のいずれかが必要となります。

なお、この後者のクラウド等は下記URLより具体例を確認できます。

国税庁公式HP/法令等/その他法令解釈に関する情報/JIIMA認証情報リスト/JIIMA認証情報リスト(電帳法スキャナ保存ソフト)(令和3年10月26日現在)




最後に電子取引に関しては、改正前も利用されている方が多いものと思われます。

そして前述した通り、紙に印刷し保存していた事業者さまは保存方法を見直す必要があります。

データで保存する場合に、画像の解像度・大きさ等の表示上の要件を満たしたとして、

課題となるのが「タイムスタンプ要件」と「検索要件」の2点だと思います。

まずタイムスタンプ要件を満たすためには、タイムスタンプを付すシステムを導入するか、

あるいは、下記のいずれかの方法をとる必要があります。

電子取引においてタイムスタンプが不要となる要件

・ 相手先がタイムスタンプを付したデータを授受する

         or

・ 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規定を
  定め、運用する

タイムスタンプを付したデータを授受できるかどうかは相手先によるので、それができない場合は後者の「事務処理規定」の作成・運用を行ってください。

なお、「事務処理規定」は下記URL先よりフォーマットをダウンロードできます。ぜひご活用ください。

国税庁公式HP/法令等/電子帳簿保存法関係/参考資料(各種規程等のサンプル)




次に検索要件についてですが、これは下記の通達を参考にしていただくとよいと思います。

電子帳簿保存法取扱通達

第2章 適用要件
法第4条 (国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等)関係

(検索できることの意義)

4-12 規則第2条第6項第6号((検索機能の確保))に規定する「検索をすることができる機能を確保しておくこと」とは、システム上検索機能を有している場合のほか、次に掲げる方法により検索できる状態であるときは、当該要件を満たしているものとして取り扱う。

(1) 国税関係書類に係る電磁的記録のファイル名に、規則性を有して記録項目を入力することにより電子的に検索できる状態にしておく方法

(2) 当該電磁的記録を検索するために別途、索引簿等を作成し、当該索引簿等を用いて電子的に検索できる状態にしておく方法

上記通達は、電子帳簿等(電子取引含む)の検索機能に関するものです。
これをみれば電子取引の検索要件は、検索機能を有するシステムの導入をとらずとも、上記(1)および(2)が示す方法により対応できることが分かります。

たとえば方法(1)によれば、規則性を持たせたファイル名で保存することでフォルダ内検索が効率的に利用できるため、検索機能を満たすものとされ、

方法(2)によれば、WordやExcel等を利用し索引簿等を作成することで、該当ファイルの保存場所が一目で分かる状態となるので、検索機能を満たすものとされます。

このように、電子取引に限っては新規システムを導入せずとも、質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることを条件に、事務処理規定の整備および上記検索要件の充足方法をとることで改正後の保存要件に対応できます。

なお、基準期間の売上高が1千万円以下の方であれば検索要件自体が不要となりますので、事務処理規定の整備のみで保存要件に対応可能です。

ライン①
いかがでしたでしょうか。
本日は、改正後の電子帳簿保存法に焦点をあてて書かせていただきました。

記事では触れていない細かい部分など、詳細はこちらの特設サイトで確認できます。

国税庁公式HP/法令等/その他法令解釈に関する情報/電子帳簿保存法関係

気になる方はぜひ調べてみてください!


© 2021 芳木会計事務所, All rights reserved.
芳木会計事務所