収入の壁 その1―課税される所得金額

税金のお話

▶ 目次

1. 収入の壁とは

2. 所得税の壁①(課税される所得金額)

3. 所得税の計算式から考える―「課税される所得金額」

4. 所得税の計算式から考える―「所得控除額」

5. 所得税の計算式から考える―「総所得金額」

6. 「課税される所得金額」の壁の高さ

ライン②
各所で雪が降るなどし、年末あたりから本格的な冬を感じるようになりました。
年末調整も終わった事業者さまがほとんどだと思われますが、
そんな昨今、お客さまから質問をお受けしました。

よく耳にする、「収入の壁」とは何なのか―――

というわけで、今回のテーマは「収入の壁 その1―課税される所得金額」です!

1. 収入の壁とは


「収入の壁」とは、それを超えると支出額が数段も増えることになるという、具体的な収入額のラインを指します。

収入の壁のイメージです。収入が一定額を超えると、支出が一段と増加します。


103万円の壁・150万円の壁などなど、聞いたことがある方も多いと思います。

配偶者の扶養内で働いている方や親御さまの扶養に入りつつ働いている方などは、これらの「収入の壁」を意識されることが特に多いと思います。

またそのような方々を雇用する側として、事業者さまにおかれましても頭に留めておいて欲しい事柄です。

「収入の壁」については、しばしば問題としてとりあげられるものは以下の4種類あります。

主な「収入の壁」

① 所得税の壁(課税される所得金額)

② 所得税の壁(扶養者等の所得控除額)

③ 住民税の壁

④ 社会保険の壁

すべて説明するとなると長くなってしまうので、
本稿では①を、次回以降②・③・④をとりあげていこうと思います。

ライン①

2. 所得税の壁①(課税される所得金額)


所得税に関する壁には、「課税される所得金額」に影響する壁と、「所得控除額」に影響する壁の2種類があります。

このうち今回とりあげるのは「課税される所得金額」に影響する壁の方です。

「課税される所得金額」という用語も「所得控除額」という用語も聞き馴染みのない方が多いと思いますが、どちらの壁も、所得税の計算構造をみれば分かりやすいかと思います。

説明のため省略している部分もありますが、
給与収入を中心としてみた場合、所得税は下記のように計算されます。


給与収入を中心とした、所得税の簡易計算式です。

ライン①

3. 所得税の計算式から考える―「課税される所得金額」


先ほどの計算式をみれば分かるのですが、「課税される所得金額」(式の有色部分)に一定の税率を乗じるなどすることで、所得税額が計算されます。

したがって「課税される所得金額」が0円(赤字を含む)である場合、所得税額は0円になります。

この流れにより所得税額が0円となるラインが、いわゆる「103万円の壁」と呼ばれるものです。

さらに計算式の通り、「課税される所得金額」は「給与所得金額」と「その他所得金額」を合算した「総所得金額」から、「所得控除額」を差し引いて計算します。

前提として「103万円の壁」が問題となるのは、

給与収入のみ得ている方(※1)や、
他の収入源もあるがその所得金額が20万円以下の方(※2)など、

年末調整のみで税金の計算が完結し、確定申告が不要な方です。

このような方は上記計算式の「その他所得金額」に該当する金額が0円となる、あるいは0円とみなすので、

以降の「総所得金額(「給与所得金額」+「その他所得金額」)」は、「給与所得金額」(「給与収入金額」-「給与所得控除額」)を指すとして話を進めていきます。

整理すると下記の通りです。

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得税額」= 0円計算式その1「課税される所得金額」
「総所得金額」-「所得控除額」

「総所得金額」
=「給与収入金額」+ 0円(以下略)-「給与所得控除額」

ライン①

4. 所得税の計算式から考える―「所得控除額」


次に「所得控除額」について考えます。

「所得控除額」とは、一定の個人的事情により「総所得金額」から差し引くことを認められた金額の合計額を指します。

よく使われているものだと、配偶者控除や生命保険料控除がこれにあたります。

現在、所得控除は下記の15種類あります。

所得控除

① 雑損控除
② 医療費控除
③ 社会保険料控除
④ 小規模企業共済等掛金控除
⑤ 生命保険料控除
⑥ 地震保険料控除
⑦ 寄附金控除
⑧ 障害者控除
⑨ 寡婦控除
⑩ ひとり親控除
⑪ 勤労学生控除
⑫ 配偶者控除
⑬ 配偶者特別控除
⑭ 扶養控除
⑮ 基礎控除

これらの所得控除を受けるためには各々一定の要件を満たす必要があるのですが、

⑮の基礎控除はご本人さまの総所得金額が2,400万円以下であれば満額(48万円)受けることができます。

つまり、「103万円の壁」が問題となるような方はすべて基礎控除の該当者となるはずです。

そしてもちろん、①から⑭の各所得控除の中にも要件を満たすものがあれば、基礎控除(⑫)の48万円に加えてその所得控除額を総所得金額から差し引くことができます。

なお、ここでは年末調整で所得税が発生しない最低ラインを試算できればいいので、計算上は基礎控除以外の所得控除の適用はないものと仮定して話を進めます。

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得税額」= 0円計算式その2

「所得控除額」= 48万円 と仮定すると、

①「課税される所得金額」
 「総所得金額」 - 48万円

「総所得金額」
 =「給与収入金額」-「給与所得控除額」

②を①に代入して、

「課税される所得金額」「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 48万円

「課税される所得金額」を0円(赤字を含む)にするための式を考えればよいので・・・

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得税額」= 0円計算式その3

「課税される所得金額」「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 48万円

なので、「課税される所得金額」≦ 0円 となるためには、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 48万円 ≦ 0円

↓

「給与収入金額」-「給与所得控除額」≦ 48万円

ライン①

5. 所得税の計算式から考える―「総所得金額」


最後に「総所得金額」を考えます。

「総所得金額」の計算において「給与収入金額」から差し引かれる「給与所得控除額」は、下記速算表に従って計算されます。

なお、「給与所得控除額」の算出には簡易給与所得表を用いる方法もあります。今回は計算の都合で速算表を使用しますが、通常時は簡易給与所得表にしたがって計算してください。


令和2年分以降(令和4年1月現在)の給与所得控除の速算表です。


ここで再度、上で整理した内容を簡単に確認してみます。

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得税額」= 0円計算式その3(まとめ)

「課税される所得金額」≦ 0円 となるためには、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」≦ 48万円 -要件Ⓐ

この要件Ⓐを満たす「給与収入金額」の範囲を考えればよいので、上記の速算表から逆算すると・・・

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得税額」= 0円計算式その4

Ⅰ 「給与収入金額」> 162.5万円 と仮定した場合

給与所得控除の速算表より、

「給与所得控除額」> 55万円

なので、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」
> 162.5万円 - 55万円 = 107.5万円
 
↓

「給与収入金額」> 162.5万円 の場合、
「給与収入金額」-「給与所得控除額」は107.5万円超となり、要件Ⓐを満たさない×


Ⅱ 「給与収入金額」≦ 162.5万円 と仮定した場合

給与所得控除の速算表より、

「給与所得控除額」= 55万円 ―Ⓑ

Ⓑを要件Ⓐに代入すると、

「給与収入金額」- 55万円 ≦ 48万円 

 ↓

「給与収入金額」≦ 48万円 + 55万円

 ↓

「給与収入金額」≦ 103万円

 ↓

「給与収入金額」≦ 103万円
このときに要件Ⓐを満たすことが分かる◎


Ⅰ・Ⅱより、
「給与収入金額」が103万円以下 のときに要件Ⓐを満たす



つまり・・・

年末調整のみで所得税の計算が完結する方で、かつ所得控除が基礎控除のみの方の場合には、

給与収入金額が103万円以下のとき、計算上所得税額が0円になります。

これが「103万円の壁」の全貌です。

簡単に言うならば、「給与収入金額」から差し引くことのできる金額(基礎控除額48万円と給与所得控除額55万円の合計額)が103万円だという話です。

なお、103万円はあくまで最低ラインの金額です。

繰り返しますが、基礎控除以外の所得控除(α円)を受けることができれば103万+α円までは所得税がかかりませんので、ぜひその旨もご留意ください。


また、すべての計算式を整理したものも記載しておきます。

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得税額」= 0円計算式まとめ「課税される所得金額」
 「総所得金額」-「所得控除額」

「所得控除額」= 48万円 と仮定すると、

「課税される所得金額」
=「総所得金額」 - 48万円


「総所得金額」
=「給与収入金額」+ 「その他所得金額」-「給与所得控除額」

「その他所得金額」= 0円 と仮定すると、

「総所得金額」「給与収入金額」-「給与所得控除額」


②を①に代入すると、

「課税される所得金額」「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 48万円


「所得税額」= 0円 となるためには 「課税される所得金額」≦ 0円 となればよいので、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 48万円 ≦ 0円

 ↓

「給与収入金額」-「給与所得控除額」≦ 48万円 ―要件Ⓐ


給与所得控除の速算表を参考に場合分けを行い考えると、

Ⅰ 「給与収入金額」> 162.5万円 と仮定した場合

給与所得控除の速算表より、

「給与所得控除額」> 55万円

なので、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」
> 162.5万円 - 55万円 = 107.5万円

 ↓ 

最低でも107.5万円を超えることが分かるので要件Ⓐを満たさない×


Ⅱ 「給与収入金額」≦ 162.5万円 と仮定した場合

給与所得控除の速算表より、

「給与所得控除額」= 55万円 ―Ⓑ

Ⓑを要件Ⓐに代入すると、

「給与収入金額」- 55万円 ≦ 48万円 

 ↓

「給与収入金額」≦ 48万円 + 55万円

 ↓

「給与収入金額」≦ 103万円

 ↓

「給与収入金額」≦ 103万円 
このときに要件Ⓐを満たすことが分かる◎


Ⅰ・Ⅱより、
「給与収入金額」が103万円以下 のときに要件Ⓐを満たす

ライン①

3. 「課税される所得金額」の壁の高さ


年末調整のみで所得税の計算が完結する方で、かつ所得控除が基礎控除のみの方の場合には、給与収入金額が103万円以下のときに所得税額が0円になることを証明しました。

この「課税される所得金額」に影響する「103万円の壁」の高さを、ざっくりとグラフで表してみるとこうなります。




なんだか、壁というより坂のようです。

というのも、所得税は「課税される所得金額」に一定の税率をかけるなどして計算されるので、

超過累進課税が生み出す一つ目の壁を超えない限り(「課税される所得金額」が195万円以下)、収入と所得税はほぼ比例関係にあります。

ちなみに、その「課税される所得金額」が195万円以下までの方にかかる税率は5%です。

グラフを見ても分かりますが、
給与収入金額が「103万円の壁」を少しばかり超えても、支払わなければならない税金は給与収入金額の1%以下なので、この壁が持つ負担感は低いように思われます。

ライン①
いかがでしたでしょうか。
本日は、4つの収入の壁のうちの1つに焦点をあてて書かせていただきました。

次回は2つ目の収入の壁をとりあげますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。



注釈リンク先

※1 給与収入のみの方
国税庁公式HP/刊行物等パンフレット・手引/国税広報参考資料/国税広報参考資料【広報月別】/給与所得者の確定申告

※2 給与収入に加え他の収入源がある方
国税庁公式HP/税の情報・手続・用紙/税について調べる所得税(確定申告書等作成コーナー)/副収入などがある方の確定申告
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