
▶ 目次
1. 所得税の壁②(扶養者等の所得控除額)
2. 所得控除
3. 所得控除―基礎控除について
4. 所得控除―扶養控除について
5. 所得控除―配偶者控除について
6. 所得控除―配偶者特別控除について
7. 4つの所得控除からみる壁
8. 「扶養者等の所得控除額」の壁の高さ

だんだんと春が近づいているのを感じますね。
今回のテーマは前回ご紹介した「収入の壁」の話の続き、
「収入の壁 その2―所得控除」です!
前回の「収入の壁 その1―課税される所得金額」はこちらから読めますので、ご興味がおありの方はこちらもぜひご覧ください。
芳木会計事務所HP/収入の壁 その①
1. 所得税の壁②(扶養者等の所得控除額)
前回の繰り返しになりますが、
「収入の壁」とは、それを超えると支出額が数段も増えることになるという、具体的な収入額のラインを指します。
103万円の壁・150万円の壁などなど、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
配偶者の扶養内で働いている方や親御さまの扶養に入りつつ働いている方などは、これらの「収入の壁」を意識されることが特に多いと思います。
またそのような方々を雇用する側として、事業者さまにおかれましても頭に留めておいて欲しい事柄です。
「収入の壁」については、しばしば問題としてとりあげられるものが以下の4種類あります。
主な「収入の壁」 ① 所得税の壁(課税される所得金額) ② 所得税の壁(扶養者の所得控除額) ③ 住民税の壁 ④ 社会保険の壁
このうち、本稿では②をとりあげていきます。
まず、給与収入を中心としてみた場合、所得税の計算式は下記の通りになります。
所得税額は、「課税される所得金額」(式の有色部分)に一定の税率を乗じるなどすることで計算されるので、赤字部分の「所得控除額」が大きければ大きいほど、所得税額が少なくなります。
この金額変動が、今回説明する「壁」の正体です。

2. 所得控除
これも前回お話した内容と重複しますが、
「所得控除額」とは、一定の個人的事情により「総所得金額」から差し引くことを認められた金額の合計額を指します。
よく使われているものだと、配偶者控除や生命保険料控除がこれにあたります。
現在、所得控除は下記の15種類あります。
所得控除 ① 雑損控除 ② 医療費控除 ③ 社会保険料控除 ④ 小規模企業共済等掛金控除 ⑤ 生命保険料控除 ⑥ 地震保険料控除 ⑦ 寄附金控除 ⑧ 障害者控除 ⑨ 寡婦控除 ⑩ ひとり親控除 ⑪ 勤労学生控除 ⑫ 配偶者控除 ⑬ 配偶者特別控除 ⑭ 扶養控除 ⑮ 基礎控除
これらの控除のうち、どれをどの程度受けられるかにより所得税額が変わります。
一般に言われる「収入の壁」に関係するのは ⑮基礎控除・⑫配偶者控除・⑬配偶者特別控除・⑭扶養控除 の4つなので、それらに絞ってみていきたいと思います。

3. 所得控除―基礎控除について
基礎控除は、下記表に従ってその金額が決められます。
多くの方は合計所得金額が2,400万円以下の範囲内なので、下記のようなイメージです。
基礎控除 48万円の所得控除 ※ 本人の合計所得金額が2,400万円を超える場合はこの限りでない
基礎控除についてもう少し詳しく知りたいという方は、下記の国税庁公式HPよりご確認ください。
国税庁公式HP/税の情報・手続・用紙/税について調べる/タックスアンサー(よくある税の質問)/No.1199 基礎控除

4. 所得控除―扶養控除について
扶養控除の内容は下記の通りです。
細かい規定などを除くと、下記のようにまとめられます。
扶養控除 生計を一にした親族(配偶者を除く)がおり、その親族の合計所得金額が年間48万円以下の場合に受けられる、38万円~63万円の所得控除
よく耳にする「お子さんがアルバイトをして103万円の壁を超えてしまった」「親御さんの(扶養控除における)扶養から抜けた」というのは、上記表でいう「扶養親族」の要件(3)を満たさなくなった状態です。
この場合には、扶養から抜けたお子さんについての扶養控除を受けることができなくなるため、親御さんが支払うべき所得税が増えることになります。
また上記表をみれば分かる通り、生計を一にしておりその親族の合計所得金額が年間48万円以下の場合には、お子さんだけでなく親御さんや兄弟その他の親族(配偶者を除く)を扶養にいれることも可能です。
意外と、同居親族などを扶養に入れ忘れているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ちなみに所得税は超過累進課税方式なので、扶養者が複数いるときは収入が多い方の扶養に入れると世帯全体でみた所得税が安くすむことが多いです。
これは他の所得控除や税額控除にもいえることなので、もし今まで知らなかったという方がいらっしゃいましたら、ぜひ覚えておいてくださいね。
扶養控除についてもう少し詳しく知りたいという方は、下記の国税庁公式HPよりご確認ください。
国税庁公式HP/税の情報・手続・用紙/税について調べる/タックスアンサー(よくある税の質問)/No.1180 扶養控除

5. 所得控除―配偶者控除について
配偶者控除の内容は下記の通りです。
こちらも細かい規定などを除くと、下記のようにまとめられます。
配偶者控除 生計を一にした配偶者がおり、その配偶者の合計所得金額が年間48万円以下の場合に受けられる、13万円~48万円の所得控除 ※ 納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合を除く
こうして見比べると分かりやすいのですが、扶養控除の適用対象である「扶養親族」と配偶者控除の適用対象である「控除対象配偶者」は、定義がほとんど同じです。
その対象者が配偶者かどうか、そして配偶者控除には納税者本人の所得制限があるということ以外は、扶養控除も配偶者控除もほとんど同じ趣旨の所得控除だと思っていただいて構いません。
配偶者控除についてもう少し詳しく知りたいという方は、下記の国税庁公式HPよりご確認ください。
国税庁公式HP/税の情報・手続・用紙/税について調べる/タックスアンサー(よくある税の質問)/No.1191 配偶者控除

6. 所得控除―配偶者特別控除について
配偶者特別控除の内容は下記の通りです。
こちらも細かい規定などを除くと、下記のようにまとめられます。
配偶者特別控除 生計を一にした配偶者がおり、その配偶者の合計所得金額が年間48万円超133万円以下の場合に受けられる、1万円~38万円の所得控除 ※ 納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合を除く
上記要件(2)ニの通り、配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額が年間48万円超133万円以下の方を対象としたものです。
配偶者の年間の合計所得金額が配偶者控除よりも高い層を対象としていることから分かる通り、配偶者特別控除は、配偶者控除を受けることができない方のための所得控除になります。
弊所にて年末調整を行う際に、配偶者控除を受けられないため配偶者の所得を記載していない方がいらっしゃいますが、尋ねてみると配偶者特別控除の適用範囲だったというケースがちらほらと見受けられます。
ご自身の生活環境は変化しますし、税法も毎年何かしらの改正があります。
一般的な給与所得者にとっては毎年のことで、惰性で記載してしまいがちのものではありますが、このような控除の申請漏れ・あるいは是正を要する記載ミスによる損失を防ぐためにも、各申告書等の記載内容は軽く目を通してから書き始めるようにしてくださいね。
配偶者特別控除についてもう少し詳しく知りたいという方は、下記の国税庁公式HPよりご確認ください。
国税庁公式HP/税の情報・手続・用紙/税について調べる/タックスアンサー(よくある税の質問)/No.1195 配偶者特別控除

7. 4つの所得控除からみる壁
基礎控除・扶養控除・配偶者控除・配偶者特別控除の4つの控除をご紹介しました。
各イメージを再掲しますね。
基礎控除 48万円の所得控除 ※ 本人の合計所得金額が2,400万円を超える場合はこの限りでない
扶養控除 生計を一にした親族(配偶者を除く)がおり、その親族の合計所得金額が年間48万円以下の場合に受けられる、38万円~63万円の所得控除
配偶者控除 生計を一にした配偶者がおり、その配偶者の合計所得金額が年間48万円以下の場合に受けられる、13万円~48万円の所得控除 ※ 納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合を除く
配偶者特別控除 生計を一にした配偶者がおり、その配偶者の合計所得金額が年間48万円超133万円以下の場合に受けられる、1万円~38万円の所得控除 ※ 納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合を除く
これら4つの適用要件および控除額を比較すると、下記表のようになります。
各々の環境により様々なケースが考えられますが、今回のテーマである「収入の壁」が問題となる方の多くはその所得金額が900万円以下(給与収入金額でいうと1,095万円以下)なので、所得金額が900万円以下であると仮定して話を進めます。
また同様に、今回のテーマである「収入の壁」が問題となるのは、
給与収入のみ得ている方(※)や、
他の収入源もあるがその所得金額が20万円以下の方(※)など、
年末調整のみで税金の計算が完結し、確定申告が不要な方です。
このような方は上記計算式の「その他所得金額」に該当する金額が0円となる、あるいは0円とみなすので、
「総所得金額(合計所得金額)」は、「給与収入金額」から「給与所得控除額(※)」を差し引いた金額を指すことになります。
この考え方に則り、上記表をそのまま「給与収入金額」を基準としたものに変換してみるとこうなります。
配偶者控除と配偶者特別控除はいずれかしか受けることができないので、基本的には、配偶者控除のみを受ける場合に所得控除額が最大となります。
これを考慮した上で上記表をみると、被扶養者・配偶者の給与収入金額が103万円以下(有色部分)のときに3つの所得控除の効果が最大となることが分かります。
これが扶養者等の所得控除額に係る「103万円の壁」と呼ばれるものです。
つまり、給与収入金額が1,095万円以下のある納税者が4つの所得控除につき可能な範囲で最大の効果を受けたい場合、被扶養者および配偶者の給与収入金額がひとまず103万円を超えなければよいということです。

8. 「扶養者等の所得控除額」の壁の高さ
この、4つの所得控除額に係る「103万円の壁」の高さをグラフで表してみます。
前提条件を下記の通り設定します。
納税者Aについて 下記の条件により納税を行う。 ① 所得控除は基礎控除・配偶者(特別)控除・扶養控除のみ ② 納税者本人の給与収入金額が500万円 ③ 配偶者(Bさん)が1人 ・ 12/31時点で70歳未満 ・ パートによる給与収入あり ④ 子供(Cさん)が1人 ・ 12/31時点で20歳 ・ アルバイトによる給与収入あり
子供Cさんの給与収入が103万円以下の場合、配偶者Bさんの給与収入とAさんの納税額との関係をグラフにするとこうなります。
上記グラフを見ると、納税額が上がり始めるのが「103万円」ではなく「150万円」になっています。
これは配偶者Bさんが70歳未満であり、配偶者控除規定内の「一般の控除対象配偶者」に該当するからです。
一般の控除対象配偶者については、配偶者の給与収入が103万円以下であれば配偶者控除(38万円)を、103万円超150万円以下であれば配偶者特別控除(38万円)を受けることになり、いずれの場合も所得控除額が38万円になります。
したがって配偶者(特別)控除に焦点をおいてみたとき、配偶者の年齢が70歳以上であれば「103万円の壁」と言って差し支えないのですが、70歳未満であれば「150万円の壁」になります。
また、グラフが壁というより坂のようになっているのは、配偶者特別控除が段階的に所得控除額を定めているからです。
前述の通り、配偶者特別控除は配偶者の給与所得金額が133万円(給与収入金額でいうと188万円)までが適用対象となるので、ぜひ覚えておいてくださいね。
参考までに、両規定の比較を載せておきます。
次に、配偶者Bさんの給与収入が103万円以下の場合、子供Cさんの給与収入とAさんの納税額との関係をグラフにするとこうなります。
上記グラフを見ると、はっきりとした「103万円の壁」が確認できます。
納税者Aさんのケースだと納税額は7万円ほどの差が出るので、負担感が大きいです。
というのも、一般の控除対象扶養親族の所得控除額が38万円であるのに対して、今回の子供Cさんのように19歳以上23歳未満の方は特定扶養親族に該当し、63万円もの所得控除を受けることができます。
特にこの年齢のお子さんはアルバイトをしているケースが多いので、節税を意識されている方はこの「103万円」のラインを超さないように気を付けたいところです。
こちらも参考までに、扶養控除の規定を再掲しておきます。

いかがでしたでしょうか。
本日は、4つの収入の壁のうちの2つ目に焦点をあてて書かせていただきました。
次回は3つ目の収入の壁をとりあげますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。