収入の壁 その3―住民税

税金のお話

▶ 目次

1. 住民税の壁

2. 住民税の計算-均等割

3. 住民税の計算-所得割

4. 計算構造に係る所得割の壁

5. 人的非課税に係る壁

6. 住民税の壁の高さ

ライン②
桜が散り、暖かい時間が増えてきました。
今年はいつもより早く夏がやってきそうな気がします。
寒暖差が大きい時期ですので、体調には存分にお気を付けください。

今回のテーマは前回ご紹介した「収入の壁」の話の続き、

「収入の壁 その3―住民税」です!

前回以前の「収入の壁」はこちらから読めますので、ご興味がおありの方はこちらもぜひご覧ください。


芳木会計事務所HP/収入の壁 その1―課税される所得金額
芳木会計事務所HP/収入の壁 その2―所得控除


1. 住民税の壁


前回同様 繰り返しますが、

「収入の壁」とは、それを超えると支出額が数段も増えることになるという、具体的な収入額のラインを指します。

収入の壁のイメージです。収入が一定額を超えると、支出が一段と増加します。


103万円の壁・150万円の壁などなど、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

配偶者の扶養内で働いている方や親御さまの扶養に入りつつ働いている方などは、これらの「収入の壁」を意識されることが特に多いと思います。

またそのような方々を雇用する側として、事業者さまにおかれましても頭に留めておいて欲しい事柄です。

「収入の壁」については、しばしば問題としてとりあげられるものが以下の4種類あります。

主な「収入の壁」

① 所得税の壁(課税される所得金額)

② 所得税の壁(扶養者の所得控除額)

③ 住民税の壁

④ 社会保険の壁

このうち、本稿では③をとりあげていきます。

なお、給与収入を中心としてみた場合の住民税の計算式は下記の通りです。住民税は、所得割額と均等割額から構成されていることを頭に留めておいてください。


給与収入を中心とした、住民税の簡易計算式です。

ライン①

2. 住民税の計算-均等割


まず均等割についてみてみます。

以下は総務省HPからの引用です。個人住民税の均等割の箇所をご確認ください。


個人住民税の構成を表しています。

総務省公式HP/政策/地方行財政/地方税制度/個人住民税


上表の通り、原則的な均等割額は以下のように定められています。

原則的な均等割額

① 県民税
・・・1,500円/年

② 市民税
・・・3,500円/年

一方で自治体によっては、この原則的金額にいくらか加算されている場合があります。 例えば姫路市にお住まいの方であれば、2022年4月現在 下記の金額が課せられています。

兵庫県姫路市の均等割額

① 県民税(兵庫県)
・・・2,300円/年

② 市民税(姫路市)
・・・3,500円/年

県民税に兵庫県の県民緑税が800円加算されていますね。

このような加算税額の詳細は各自治体のHPより確認できますので、ご興味のある方はぜひ調べてみてください。姫路市の方であれば下記のリンクより確認できます。

姫路市公式HP/防災・くらし・手続き/税金/市民税/個人住民税(市民税・県民税)のご案内/住民税(市民税・県民税)の計算について

ライン①

3. 住民税の計算-所得割


次に、所得割の内容についてみてみます。

総務省HPより引用した表を再掲します。個人住民税の所得割の箇所をご確認ください。


個人住民税の構成を表しています。

総務省公式HP/政策/地方行財政/地方税制度/個人住民税


ご覧の通り、所得割における標準税率は一律10%( 6% + 4% あるいは 2% + 8% )です。

この税率を用いた式により所得割額を算出するのですが、その流れは所得税のものとほとんど同じです。所得控除・税額控除の内容および税率の値、復興特別所得税の有無くらいしか差異がありません。

参考として、両者計算式の比較を載せておきます。


住民税の所得割と所得税とを比較しています。

ライン①

4. 計算構造に係る所得割の壁


上表の通り住民税の所得割額は、「課税される所得金額(住民税の課税標準)」に標準税率をかけた金額から税額控除を引いて計算されます。つまり、「課税される所得金額」が0円であれば所得割額も0円になるということです。

それでは具体的に、給与収入がいくらのときに「課税される所得金額」が0円となるのかを考えていきます。

「課税される所得金額」は「給与所得金額」と「その他所得金額」を合算した「総所得金額」から、「所得控除額」を差し引いて計算します。

前記事からの繰り返しになりますが、前提として今回の「収入の壁」も、

給与収入のみ得ている方(※)や、
他の収入源もあるがその所得金額が20万円以下の方(※)など、

年末調整のみで税金の計算が完結し、確定申告が不要な方を前提とした内容になります。

このような方は上記計算式の「その他所得金額」に該当する金額が0円となる、あるいは0円とみなすので、

以降の「総所得金額」(「給与所得金額」+「その他所得金額」)は、「給与所得金額」(「給与収入金額」-「給与所得控除額」)を指すとして話を進めていきます。




まず、「課税される所得金額」と「総所得金額」との関係はこのように整理できます。

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得割額」= 0円計算式その1「課税される所得金額」
「総所得金額」-「所得控除額」

「総所得金額」
=「給与収入金額」+ 0円(以下略)-「給与所得控除額」
次に「所得控除額」について考えます。

「所得控除額」とは、一定の個人的事情により「総所得金額」から差し引くことを認められた金額の合計額を指します。

よく使われているものだと、配偶者控除や生命保険料控除がこれにあたります。

現在、所得控除は下記の14種類あります。

所得控除

① 雑損控除
② 医療費控除
③ 社会保険料控除
④ 小規模企業共済等掛金控除
⑤ 生命保険料控除
⑥ 地震保険料控除
⑦ 障害者控除
⑧ 寡婦控除
⑨ ひとり親控除
⑩ 勤労学生控除
⑪ 配偶者控除
⑫ 配偶者特別控除
⑬ 扶養控除
⑭ 基礎控除

これらの所得控除を受けるためには各々一定の要件を満たす必要があるのですが、

⑮の基礎控除はご本人さまの総所得金額が2,400万円以下であれば満額(43万円)受けることができます。

つまり、今回の「収入の壁」が問題となるような方はすべて基礎控除の該当者となるはずです。

そしてもちろん、①から⑭の各所得控除の中にも要件を満たすものがあれば、基礎控除(⑫)の43万円に加えてその所得控除額を総所得金額から差し引くことができます。

なお、ここでは年末調整で住民税の所得割が発生しない最低ラインを試算できればいいので、計算上は基礎控除以外の所得控除の適用はないものと仮定して話を進めます。

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得割額」= 0円計算式その2

「所得控除額」= 43万円 と仮定すると、

①「課税される所得金額」
 「総所得金額」 - 43万円

「総所得金額」
 =「給与収入金額」-「給与所得控除額」

②を①に代入して、

「課税される所得金額」「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 43万円

「課税される所得金額」を0円(赤字を含む)にするための式を考えればよいので・・・

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得割額」= 0円計算式その3

「課税される所得金額」「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 43万円

なので、「課税される所得金額」≦ 0円 となるためには、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」- 43万円 ≦ 0円

↓

「給与収入金額」-「給与所得控除額」≦ 43万円

最後に「総所得金額」を考えます。

「総所得金額」の計算において「給与収入金額」から差し引かれる「給与所得控除額」は、下記速算表に従って計算されます。

なお、「給与所得控除額」の算出には簡易給与所得表を用いる方法もあります。今回は計算の都合で速算表を使用しますが、通常時は簡易給与所得表にしたがって計算してください。


令和2年分以降(令和4年1月現在)の給与所得控除の速算表です。


ここで再度、上で整理した内容を簡単に確認してみます。

計算式その3(まとめ)

「課税される所得金額」≦ 0円 となるためには、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」≦ 43万円 -要件Ⓐ

この要件Ⓐを満たす「給与収入金額」の範囲を考えればよいので、上記の速算表から逆算すると・・・

「課税される所得金額」≦ 0円 ならば 「所得割額」= 0円計算式その4

Ⅰ 「給与収入金額」> 162.5万円 と仮定した場合

給与所得控除の速算表より、

「給与所得控除額」> 55万円

なので、

「給与収入金額」-「給与所得控除額」
> 162.5万円 - 55万円 = 107.5万円
 
↓

「給与収入金額」> 162.5万円 の場合、
「給与収入金額」-「給与所得控除額」は107.5万円超となり、要件Ⓐを満たさない×


Ⅱ 「給与収入金額」≦ 162.5万円 と仮定した場合

給与所得控除の速算表より、

「給与所得控除額」= 55万円 ―Ⓑ

Ⓑを要件Ⓐに代入すると、

「給与収入金額」- 55万円 ≦ 43万円 

 ↓

「給与収入金額」≦ 43万円 + 55万円

 ↓

「給与収入金額」≦ 98万円

 ↓

「給与収入金額」≦ 98万円
このときに要件Ⓐを満たすことが分かる◎


Ⅰ・Ⅱより、
「給与収入金額」が98万円以下 のときに要件Ⓐを満たす

つまり・・・

年末調整のみで所得税の計算が完結する方で、かつ所得控除が基礎控除のみの方の場合には、

給与収入金額が98万円以下のとき、計算上所得割額が0円になります。

住民税の所得割には計算構造上の「98万円の壁」があるというわけです。


ざっと確認しましたが、前述の通り住民税の所得割と所得税の計算式はほとんど同じです。

所得控除(本稿では基礎控除のみ)の金額が所得税は48万円なのに対し住民税は43万円であるという点を除き、「収入の壁 その1」で解説した内容そのままですね。

ライン①

5. 人的非課税に係る壁


住民税は原則すべての住民に課されるものではありますが、例外的に非課税制度が存在します。

軽く調べたところ、総務省が公表している資料では直近の改正が反映された一覧表が確認できませんでした・・・。例示としては個別具体的な形にはなりますが分かりやすかったので、姫路市のHPより内容を引用(便宜上 番号・符号のみ加筆)させていただきます。

なお、この非課税制度は地方税法第二十四条の五・第二百九十五条および施行令四十七条の三に規定されるものであり、その中でも均等割の非課税限度額の計算については、級地区分ごとに金額を設定し、かつ、各市町村の条例に一部金額設定を委任しています(下記引用の赤字部分)。したがって当該箇所は市町村により金額が異なりますので、姫路市以外にお住まいの方は参考程度にお考えください。

個人の住民税の非課税範囲について


以下の要件に該当される人は、個人の住民税が非課税です。非課税基準は税制改正等により年度ごとに異なります。


① 均等割・所得割とも非課税となる人
以下の要件に該当される人は、均等割・所得割とも非課税です。

・生活保護法の規定による生活扶助を受けている人
・前年中の合計所得金額が135万円(令和2年度以前は125万円)以下で次に挙げる人
(1:障害者 2:未成年者 3:ひとり親、寡婦または寡夫)


② 均等割が非課税となる人
前年中の合計所得金額が次の算式で求めた額以下の人は、均等割が非課税です。

・本人のみ
45万円(令和2年度以前は35万円)

・控除対象配偶者または扶養親族がある場合
35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+31万円令和2年度以前は35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+21万円


③ 所得割が非課税となる人
前年中の総所得金額等の合計額が次の算式で求めた額以下の人は、所得割が非課税です。

・本人のみ
45万円(令和2年度以前は35万円)

・控除対象配偶者または扶養親族がある場合
35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+42万円

※令和2年度以前は35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+32万円
姫路市公式HP/防災・くらし・手続き/税金/市民税個人住民税(市民税・県民税)のご案内/住民税(市民税・県民税)の計算について


①は、生活保護法の規定による生活扶助を受けている人あるいは、障害者・未成年者・ひとり親等で前年の合計所得金額が135万円以下の人を対象としています。

②および③については、少なくとも前年中の総所得金額等の合計額が45万円以下であれば、均等割も所得割も非課税になり住民税自体がかかりません。加えて、同一生計配偶者や扶養親族がいる方であれば給与収入がもう少し増えても構わないという規定です。

総所得金額等の合計額が45万円以下というのは、収入が給与のみの方であれば給与収入金額が100万円以下の方を指すので、姫路市の方であれば「100万円の壁」がここにあるといえるでしょう。




さて、先ほど「4.計算構造に係る所得割の壁」にて、「年末調整のみで所得税の計算が完結する方で、かつ所得控除が基礎控除のみの方の場合には、給与収入金額が98万円以下のとき、計算上所得割額が0円になります」と述べました。

しかし実際にはこの所得割の計算がなされる以前に、給与収入金額が98万円以下の方は非課税制度の適用対象者(給与収入金額が100万円以下)となるため、所得割額が0円になります。

したがって住民税の所得割額に関しては、どの市町村の方でも「100万円の壁」があると覚えていただけると幸いです。

一方で均等割額に関しては、姫路市の場合であれば所得割額と同様に「100万円の壁」といえますが、市町村により非課税限度額が異なります。姫路市以外にお住まいの方は、ぜひご自身で調べてみてくださいね。

ライン①

6. 住民税の壁の高さ


では、参考までに姫路市の住民税に係る「100万円の壁」の高さをグラフで表してみます。

前提条件を下記の通り設定します。

納税者Aについて

下記の条件により納税を行う。

① 納税者(Aさん)
 ・ 12/31時点で70歳未満
 ・ パートによる給与収入あり

② 配偶者(Bさん)が1人
 ・ 12/31時点で70歳未満
 ・ 給与収入が500万円

③ 子供(Cさん)が1人
 ・ 12/31時点で20歳
 ・ 収入はなし
 ・ 配偶者(Bさん)の扶養親族

④ 一家は兵庫県姫路市に在住

⑤ 所得控除は基礎控除・配偶者(特別)控除・扶養控除のみ考慮

上記条件より、納税者Aさんについて以下の事項が分かります。

条件から分かる納税者Aの情報

・控除対象配偶者はなし
・扶養親族はなし
・3種類の所得控除のうち基礎控除のみ適用あり

これらの情報から住民税を計算しグラフにするとこうなります。




下のグラフが均等割額、上のグラフが住民税合計額の推移になります。

非課税限度額を超えると住民税が発生しますが、均等割は定額であり、所得割は課税される所得金額の10%で推移します。したがって非課税限度額を超えてからの曲線は、恐らく、給与収入金額と課税される所得金額の関係を表すグラフがあったとして、それと同じような形になっているものと思われます。

ついでに、気になったので給与収入金額と住民税との比率をグラフにしてみると・・・




ものすごく緩やかではありますが、Aさんの給与収入金額に占める住民税の割合が少しずつ増えているのが分かります。Aさんをモデルとした場合、住民税は給与所得控除の影響を受けるため、所得税ほどではないにしろ収入金額が上がれば上がるほど高くなることが分かります。


ライン①

いかがでしたでしょうか。
本日は、4つの収入の壁のうちの3つ目に焦点をあてて書かせていただきました。

次回は4つ目の収入の壁をとりあげますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。


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