収入の壁 その4―社会保険(①医療保険)

税金のお話

▶ 目次

1. 社会保険の壁

2. 社会保険の種類

3. 医療保険とは

4. 医療保険―後期高齢者医療制度

5. 医療保険―健康保険

6. 医療保険―国民健康保険

7. 医療保険のまとめ

ライン②
暑さが本格的になってきた今日この頃、
皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
熱中症のリスクはあるものの、マスクをつける日々はまだしばらく続きそうですね。

今回のテーマは前回ご紹介した「収入の壁」の話の続き、

「収入の壁 その4―社会保険(①医療保険)」です!

前回以前の「収入の壁」はこちらから読めますので、ご興味がおありの方はこちらもぜひご覧ください。


芳木会計事務所HP/収入の壁 その1―課税される所得金額
芳木会計事務所HP/収入の壁 その2―所得控除
芳木会計事務所HP/収入の壁 その3―住民税


1. 社会保険の壁


前回同様 繰り返しますが、

「収入の壁」とは、それを超えると支出額が数段も増えることになるという、具体的な収入額のラインを指します。

収入の壁のイメージです。収入が一定額を超えると、支出が一段と増加します。


103万円の壁・150万円の壁などなど、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

配偶者の扶養内で働いている方や親御さまの扶養に入りつつ働いている方などは、これらの「収入の壁」を意識されることが特に多いと思います。

またそのような方々を雇用する側として、事業者さまにおかれましても頭に留めておいて欲しい事柄です。

「収入の壁」については、しばしば問題としてとりあげられるものが以下の4種類あります。

★ 主な「収入の壁」

① 所得税の壁(課税される所得金額)

② 所得税の壁(扶養者の所得控除額)

③ 住民税の壁

④ 社会保険の壁

このうち、本稿では④をとりあげていきます。

社会保険の中にも一部、所得税の「扶養」のような概念が存在します。
「収入の壁 その2―所得控除」で説明した所得税における「扶養控除」「配偶者(特別)控除」のように、一定の要件を満たすことにより生じる社会保険料の発生が、今回説明する「社会保険の壁」の正体です。

ライン①

2. 社会保険の種類


社会保険には様々なものがあります。

社会保険の種類


ご覧のとおり、「社会保険」と一口に言っても広義か狭義かでその範囲が異なります。

個人的な印象としては狭義の範囲で使われることが多いような気がしますが、文脈によって労働保険を含むか含まないかが変わります。

「社会保険」という用語をお使いの際にはお気を付けくださいね。


さて、このうち今回の収入の壁に関わるのは「狭義の社会保険」、つまり「医療保険」「介護保険」「年金保険」の3種類です。

すべてを取り上げると長くなるので、今回は「医療保険」に着目してみていきたいと思います!

ライン①

3. 医療保険とは


医療保険には、下記のようなものがあります。

★ 医療保険の種類

① 後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)

② 健康保険(協会けんぽ・組合健保)

③ 国民健康保険(都道府県および市区町村・同業者の組合)

例外もありますが、

75歳以上の方は「③ 後期高齢者医療制度」の被保険者であり、

その他のサラリーマンなどの給与所得者は「① 健康保険」、
また自営業者は「② 国民健康保険」の被保険者である場合が多いです。

ライン①

4. 医療保険―後期高齢者医療制度


まず、「① 後期高齢者医療制度」についてみていきます。

後期高齢者医療制度の被保険者の範囲は下記の通りです。

高齢者の医療の確保に関する法律 第五十条

次の各号のいずれかに該当する者は、後期高齢者医療広域連合が行う後期高齢者医療の被保険者とする。


後期高齢者医療広域連合の区域内に住所を有する七十五歳以上の者


後期高齢者医療広域連合の区域内に住所を有する六十五歳以上七十五歳未満の者であつて、厚生労働省令で定めるところにより、政令で定める程度の障害の状態にある旨の当該後期高齢者医療広域連合の認定を受けたもの
高齢者の医療の確保に関する法律 第五十一条 

前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者は、後期高齢者医療広域連合が行う後期高齢者医療の被保険者としない。


生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)による保護を受けている世帯(その保護を停止されている世帯を除く。)に属する者


前号に掲げるもののほか、後期高齢者医療の適用除外とすべき特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるもの

「後期高齢者医療広域連合」にはすべての市町村が加入しているので、一部の例外を除き、75歳以上の方は高齢者医療制度の被保険者に該当することになります。

したがって、それまで別の医療保険の被扶養者であった方もその他の方も、基本的には75歳になると後期高齢者医療制度の被保険者になります。

高齢者医療制度では、自身の所得に応じた所得割額に均等割額を加えた保険料を納めることになります。
「被扶養者」のような概念は存在せず、本稿のいう「社会保険の壁」は後期高齢者医療制度には存在しません。

ライン①

5. 医療保険―健康保険


次に、「② 健康保険」についてです。

健康保険には、「協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)」と「組合健保(組合管掌健康保険)」の2種類があります。

多くの人は前者の「協会けんぽ」に加入しているものと思います。
細かな規定は異なりますが、両者ともに健康保険法に準拠しているため基本的な内容は同じです。

被保険者の範囲は下記の通りです。

健康保険法 第三条

この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者は、日雇特例被保険者となる場合を除き、被保険者となることができない。


後期高齢者医療の被保険者(高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)第五十条の規定による被保険者をいう。)及び同条各号のいずれかに該当する者で同法第五十一条の規定により後期高齢者医療の被保険者とならないもの(以下「後期高齢者医療の被保険者等」という。)


厚生労働大臣、健康保険組合又は共済組合の承認を受けた者(健康保険の被保険者でないことにより国民健康保険の被保険者であるべき期間に限る。)

つまり健康保険の適用事業所で働いている者は、一部の例外を除き健康保険の被保険者となります。

その例外の中には、後期高齢者医療制度の被保険者および、後期高齢者医療制度において例外的に被保険者から除外されている者(「4. 医療保険―後期高齢者医療制度」参照)、そして国民健康保険の被保険者(「6. 医療保険―国民健康保険」参照)のうち健康保険の被保険者に該当しない者が含まれています。

また、健康保険には「扶養」の概念が存在します。
「被扶養者」の要件は以下の通りです。

健康保険法 第三条七項

この法律において「被扶養者」とは、次に掲げる者で、日本国内に住所を有するもの又は外国において留学をする学生その他の日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められるものとして厚生労働省令で定めるものをいう。ただし、後期高齢者医療の被保険者等である者その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者は、この限りでない。


被保険者(日雇特例被保険者であった者を含む。以下この項において同じ。)の直系尊属、配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この項において同じ。)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの


被保険者の三親等内の親族で前号に掲げる者以外のものであって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの


被保険者の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの


前号の配偶者の死亡後におけるその父母及び子であって、引き続きその被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの

上記法律をみると「主としてその被保険者により生計を維持するもの」という文言が出てきます。

これに該当するか否かは、厚生労働省より昭和52年4月6日付けで通知された下記内容が判断の指針となっているようです。

○収入がある者についての被扶養者の認定について

(昭和五二年四月六日)
(保発第九号・庁保発第九号)
(各道府県知事あて厚生省保険局長・社会保険庁医療保険部長通知)

健康保険法第一条第二項各号に規定する被扶養者の認定要件のうち「主トシテ其ノ被保険者ニ依リ生計ヲ維持スルモノ」に該当するか否かの判定は、専らその者の収入及び被保険者との関連における生活の実態を勘案して、保険者が行う取扱いとしてきたところであるが、保険者により、場合によっては、その判定に差異が見受けられるという問題も生じているので、今後、左記要領を参考として被扶養者の認定を行われたい。

なお、貴管下健康保険組合に対しては、この取扱要領の周知方につき、ご配意願いたい。



1 被扶養者としての届出に係る者(以下「認定対象者」という。)が被保険者と同一世帯に属している場合

(1) 認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の二分の一未満である場合は、原則として被扶養者に該当するものとすること。

(2) 前記(1)の条件に該当しない場合であっても、当該認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上廻らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的に勘案して、当該被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして差し支えないこと。

2 認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合

認定対象者の年間収入が、一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助に依る収入額より少ない場合には、原則として被扶養者に該当するものとすること。

3 前記1及び2により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合には、その具体的事情に照らし最も妥当と認められる認定を行うものとすること。

4 前記取扱いによる被扶養者の認定は、今後の被扶養者の認定について行うものとすること。

5 被扶養者の認定をめぐって、関係者間に問題が生じている場合には、被保険者又は関係保険者の申し立てにより、被保険者の勤務する事業所の所在地の都道府県保険課長が関係者の意見を聴き適宜必要な指導を行うものとすること。

6 この取扱いは、健康保険法に基づく被扶養者の認定について行うものであるが、この他に船員保険法第一条第三項各号に規定する被扶養者の認定についてもこれに準じて取り扱うものとすること。
厚生労働省 公式HP/収入がある者についての被扶養者の認定について(昭和五二年四月六日)


なんだか難しそうですが、
引用した健康保険法の内容を簡単にまとめるとこんな感じでしょうか。

健康保険における「扶養」の定義


1. 被扶養者の範囲

下記のいずれかを満たす者

① 主として被保険者に生計を維持されている直系尊属あるいは2親等内の親族
② 主として被保険者に生計を維持されている、一定の要件を満たす同居人


2. 被扶養者の収入基準

A 同一世帯の場合 
年間収入130万円未満かつ被保険者の年間収入の2分の1未満である場合
その他の一定の場合

B 同一世帯でない場合
年間収入130万円未満かつ被保険者からの援助額より少ない場合

上記「被扶養者の収入基準」が、本稿のテーマである「社会保険の壁」に直結する部分です。

世間でよく言われる「社会保険の130万円の壁」は、収入基準の一指標である「130万円」を指しているというわけです。

一方でこうしてみると、年間収入が130万円未満、いわゆる「130万円の壁」を超えないからといって、必ずしも被扶養者に該当するわけではないことが分かります。

実際にその例外に該当する方は少ないかもしれませんが、このあたりはお気をつけくださいね。

ライン①

6. 医療保険―国民健康保険


最後に、「③ 国民健康保険」についてです。

被保険者の範囲は下記の通りです。

国民健康保険法 第五条

都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする。
国民健康保険法 第六条

前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者は、都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険(以下「都道府県等が行う国民健康保険」という。)の被保険者としない。


健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定による被保険者。ただし、同法第三条第二項の規定による日雇特例被保険者を除く。


健康保険法の規定による被扶養者。ただし、同法第三条第二項の規定による日雇特例被保険者の同法の規定による被扶養者を除く。


高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)の規定による被保険者


国民健康保険組合の被保険者

原則として国内に住所を有する者はすべて都道府県等が行う国民健康保険の被保険者となりますが、上記第六条に列挙されている内容のいずれかに該当する者は被保険者としない旨が書かれています。

そしてその列挙されている内容の中には、健康保険法の規定による被保険者および被扶養者(「5. 医療保険―健康保険」参照)、後期高齢者医療制度の被保険者(「4. 医療保険―後期高齢者医療制度」参照)、そして国民健康保険組合の被保険者(上記「国民健康保険法 第十三条」参照)が含まれています。

他の医療保険に加入していない者は、一部の例外を除いて都道府県等が行う国民健康保険の被保険者になるということです。

都道府県等が行う国民健康保険では、自身の所得に応じた所得割額に均等割額を加えた保険料を納めることになります。
この都道府県等が行う国民健康保険においても、後期高齢者医療制度と同様に、「被扶養者」のような概念は存在せず本稿のいう「社会保険の壁」は存在しないといえます。


一方で国民健康保険法においては、組合が行う国民健康保険というものも規定されています。

国民健康保険法 第十三条

国民健康保険組合(以下「組合」という。)は、同種の事業又は業務に従事する者で当該組合の地区内に住所を有するものを組合員として組織する。


第一項の規定にかかわらず、第六条各号(第八号及び第十号を除く。)のいずれかに該当する者及び他の組合が行う国民健康保険の被保険者である者は、組合員となることができない。ただし、その者の世帯に同条各号(第十号を除く。)のいずれにも該当せず、かつ、他の組合が行う国民健康保険の被保険者でない者があるときは、この限りでない。
「税理士国民健康保険組合」や「医師国民健康保険組合」などがこちらに該当します。

国民健康保険法の第六条にも記載されている通り、国民健康保険組合員は国民健康保険の被保険者ではありません。

また、所属する組合により要件等が個々に定められており一律に論じることができないため、本稿では取り扱わないものとします。
詳しくは各組合の資料や公式HPからご確認ください。

ライン①

7. 医療保険のまとめ


以上より、医療保険においては、「② 健康保険(協会けんぽ・組合健保)」に加入している場合に「社会保険の壁」が存在することが分かりました。

次回は、狭義の社会保険の残りの二つである「介護保険」と「年金保険」について確認していこうと思います。


ライン①

いかがでしたでしょうか。
本日は、4つの収入の壁のうちの4つ目に焦点をあてて書かせていただきました。

次回は今回の続きになりますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。


© 2021 芳木会計事務所, All rights reserved.
芳木会計事務所